心リハとは(医療者向け)
心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)とは
狭心症、心筋梗塞、心不全、心臓弁膜症などの疾患は高齢化社会とともに増加の一途です(図1,2)。心疾患患者は、173万2千人(厚生労働省「患者調査」平成29年(2017)年調査)でがん患者より多く、全医療費の19.7%にあたる6兆円が循環器疾患に消費され(第1位)、がん疾患14.2%(第2位)、整形外科的疾患7.9%(第3位)が続きます。
更には、末梢動脈硬化症の患者は40万人程度、潜在的な患者数が100万人にも及ぶと想定されており、こちらも動脈硬化疾患であるため、増加傾向です。
このような疾患に対して、心臓リハビリが保険適応となります。心臓リハビリは、予後改善効果、疾患予防効果、疾患治療効果、リラクゼーション効果、血管内皮機能改善、ミトコンドリア機能改善など様々な効果が報告されています。予後改善効果に関しては、心不全加療で事情がない限り処方されることが多いβ遮断薬と同等の効果があるとされていますが、日本において、心臓リハビリは普及しているとは言い難い状況です(J Jpn Coron Assoc 2015; 21: 58‒66)。
なぜでしょうか?これには様々な理由が挙げられています。
医療者が心臓リハビリを患者さんに説明することに熱心ではないこともあるでしょう。治療が終わった患者さんに、退院後もたゆまない生活管理が必要であることを、医療者が限られて時間で説明するのは難しいことです。心臓リハビリを提供できる施設が限られているという問題は、全国で心臓リハビリ施設が増えており、徐々に解消しつつあります。
また患者さんが、治療後も頻回に病院に通院しなければならないことは、身体的、時間的、経済的な負担になるでしょう。仕事で忙しい、家族の世話で時間が取れない、病院までが遠くて頻回には通えない、などは外来心臓リハビリ通院を妨げる大きな要因となっています。通院するために家族の付き添いが必要な方は、家族に迷惑をかけたくないという患者さんもいるでしょう。更には社会的要因、たとえばコロナ流行禍で外出をなるべく控えたいという感染予防の意識があったり、心臓リハビリにかかる費用(1回500円~2,000円)が負担になることがあります。寿命に対する考え方も個々で異なりますので、これらを上回るメリットが心臓リハビリにないと、患者さんは外来心臓リハビリには通院されないでしょう。
医療者ができることは、心臓リハビリの目的と重要性を説明し、患者さんが希望されれば心臓リハビリに参加できる機会を提供することです。心臓リハビリで心臓にとってのよい生活を学ぶには、退院後、少し元気になって今後に対して前向きになりつつある時がまたとないチャンスなのです。心臓リハビリの効果を考えますと、運命の分かれ目とも言えるでしょう。また患者さん個人だけではなく、医療経済学の視点からは、もっとも医療費を必要とする循環器疾患に高額な治療費をかけるより、予防に努めた方が医療費削減につながることがわかっています。
不思議なことに、これだけ外来心臓リハビリの参加率が低くでも、医療者が心臓の病気に罹患した場合は、心臓リハビリを希望する傾向が強いです。退院後、自分にとってどれくらいの運動負荷が正解かをわかっている患者さんは、たとえ専門家であったとしても少ないでしょう。正確な有酸素運動レベルの負荷は心肺機能検査によって判明するものです。病気を管理して再び入院にならないように正しい知識を持つことが大事です。
2018年12月、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(以下、脳卒中・循環器病対策基本法」が成立しました。この法律によって心臓リハビリが国民の義務であるヨーロッパ諸国のように、日本も心臓リハビリを含めて、循環器病の予防推進し、人々の健康寿命を延ばし、医療・介護費の負担軽減を図ろうとしています。心疾患患者が入院後急性期にリハビリを開始し、回復期と言われる外来心臓リハビリを行い、維持期と言われる在宅心臓リハビリ・地域心臓リハビリにシームレスにつなげる流れが、自然と機能するシステム作りが必要です。
また最近は日本でも各施設で遠隔心臓リハビリへの挑戦が始まっています。遠隔心臓リハビリは、コロナ禍において、感染予防、通院に要する時間や費用の節約、心臓リハビリテーションプログラムの継続率が90%以上になる、など様々なメリットが挙げられています。一方、安全面、法的整備、情報漏洩などの問題については、これから解決していかなければいけない課題もありますが、時代とともにIT技術が進歩しており、遠隔心臓リハビリは進歩していくと考えられています。
維持期心臓リハビリテーションとは
心臓リハビリ開始後、150日を経過したのちは、回復期までで習得した運動の方法を自分で継続していかなければいけません。
現在わが国では、心臓リハビリは、心血管疾患や心不全を含む心臓病を対象とした急性期から回復期への心臓リハビリが中心となっています。一方で、維持期心臓リハビリの実施状況、有効性については、エビデンスが著しく不足しており、その実態は未だに明らかではありません。平成18年度診療報酬改定で心臓リハビリの上限日数が設けられ、急性期から回復期心臓リハビリ継続期間は心臓リハビリで5か月間、例外的に、心臓リハビリによって改善が見込まれる患者では月13単位に限り維持期心臓リハビリを算定できる仕組みになっています。医療の現場では、多職種で構成される心臓リハビリスタッフが、高リスク患者(重症虚血、低心機能、骨格筋低下、再発)に対しては生涯にわたる継続的な心臓リハビリを推奨していますが、維持期心臓リハビリおよび長期間観察に関する大規模な報告はあまりありません。海外の研究でも心臓リハビリ期間は長くて1年間がほとんどですが、心筋梗塞後に3年間心臓リハビリを継続したGOSPEL study(Arch Intern Med. 2008)では、維持期心臓リハビリが心血管イベントを改善させたことを初報告しています。日本での報告では、中山らが10,474人の心疾患による入院患者を調査した報告があります。心臓リハビリ継続期間で、急性期のみ(PhaseI)、回復期まで(PhaseII)、維持期まで(PhaseIII)の3群にわけて予後を比較したところ、維持期心臓リハビリの生命予後が最も長く、心血管イベントのリスクがもっとも低い結果となりました(図4、Int J Cardiol. 2020;309:1-7)。維持期も心臓リハビリを継続することで、予後改善効果の可能性が見込まれます。
心臓リハビリテーションに関わる制度・資格について
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